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 RE/MAPとは、都市空間を再編成するプロジェクトである。それは、都市の中にあるさまざまなもの ――人や自動車の音、ショーウインドウ、看板、電柱やちらし、飲食店のにおい、笑い声やBGM、ゴミやガラクタ、犬やネコなどの動物―― とにかくありとあらゆるものを断片化し、つなぎあわせ、移動させたり、形を変えたりしながら、本来ならばありえたかもしれない、もうひとつの空間をつくっていこうというものだ。
 それは、音楽の領域ではクラブのDJが行っている作業に近いのかもしれない。DJは、これまでにつくられた、ありとあらゆる音の素材を集めて、サンプリングし、リミックスする。それは単に過去の音楽を再生しているのではない。再生と同時になにか別のものを創造している。それは、過去を現在の中にそのまま蘇らせるのではなく、過去と現在とを結びつけることで、別の奇妙な時間を生みだしているのだ。それは、過去が現在の中に混ざりあうと同時に、現在が過去の中に突如として浮かび上がるような倒錯した時間のあり方である。
 もちろん、DJの形式はいくつかあるうちのひとつの原型であって、それにRE/MAPのすべてが還元されるわけではない。DJがしばしば聴覚と身体の運動性を中心に編成されるのに対して、RE/MAPは視覚や触覚と身体を中心に構成されている。RE/MAPが目指すのは、DJがこれまで発展させてきたひとつの形式を全面的に拡大し、聴覚だけではなく、視覚や触覚、嗅覚や味覚といったすべての身体感覚を用いて、オルタナティヴな時間と空間のあり方を提示しようというものだ、ともいえるだろう。とはいえ、それも偶然の産物であり、RE/MAPはまったく別のかたちでどこかの都市であらわれるかもしれない。
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 DJとのアナロジーが有効なのは、その移動性mobilityと流動性flexibilityにおいてである。私たちは、RE/MAPをこの小倉という空間に閉じこめられるものとして考えているわけではない。むしろ進行中のさまざまなプロジェクトの交錯点としてRE/MAPは存在している。それは、また別の時間、別の空間にふと現れるかもしれない。遠く離れた場所に突然連結し、増殖していくかもしれない。RE/MAPは、DJがレコードさえあれば世界中を巡回できるように、アイデアをもって手軽に旅をすることができる。けれども、それは美術の世界で通常「巡回展」という言葉であらわされるような類のものではない。それは、移動する中でもつねに変化し、それぞれの都市空間のさまざまな要素や人びとと結びついていく。
 RE/MAPはある部分はアートプロジェクトだが、狭い意味でのアートプロジェクトにすべて回収されるわけではない。確かに今回のRE/MAP2002には、多くのアーティストが参加しているし、また展覧会という形式がこのプロジェクトの中心であることも事実である。しかし、同時に私たちは、特権的な才能をもったアーティストだけが、すばらしい「アート」をつくることができるという思考法をいったん破棄しようとしている。地図を描くことは、絵画や彫刻を制作することと異なり、すべての人が日常的に行っている実践である。私たちが焦点をあてようとしたのは、この日常的な実践の創造力である。
 RE/MAPは、一義的には地図を描くというプロジェクトである。ここで地図を描くことは、現実の都市をそのまま写しとることではない。地図というと、私たちはすぐに空撮写真をもとにした二次元の平面地図を思い浮かべるが、それはあくまでも空間認識のひとつの手段にすぎない。私たちは上空から俯瞰した視点によって都市を認識しているわけではなく、
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ストリートや路上を歩き、動き回り、徘徊しながら、その空間を把握しているはずだ。そのとき、地図上に表記される距離や方角よりも、顔をあわせる人びととの関係性や匂い、雰囲気や空気感といったものが、空間構成の重要な役割を果たしている。
 とりわけ、この空間把握にとり身体はきわめて重要な要素である。歩くことは都市を地図化するもっともよい方法のひとつである。自分の足を使って街を歩いてみると、自動車や電車ではけっして得られないような全体的な都市の配置を理解することができる。
 RE/MAPは、参加者に歩くことを要請する。ラフォーレミュージアムをでたら、小倉の街を歩いてみよう。とりあえずは、関連企画を開催しているギャラリーSOAPまで行ってみるのもいいだろうし、会場の中でみた都市の断片を探しに、繁華街を歩いてみてもいいだろう。小倉の街に足を踏み入れることは、RE/MAPの「鑑賞者」ではなく、「参加者」になることの、文字どおりの第一歩である。

 RE/MAPは、昨年の9月23日から30日までギャラリーSOAPで行われた「RE/MAP:北九州再地図化計画」で明確な形をもってはじまった。けれども、こうした活動は、このとき突然始まったわけではない。今回の企画の中心であるsecond planetは、すでにパラサイト・プロジェクトという都市空間を利用したゲリラ・プロジェクトを90年代の中頃から行ってきた。たとえば、1994年から95年に彼らが制作したメタスタンクMetastankは、都市の一時的占有をめぐる作品のひとつである。作品の仕組みはいたってシンプルである。路上に大きめのゴミ箱のようにも見えるバケツ状の作品を置いて、
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それに勝手に住所を与えるというものである。
 プロジェクトの参加者はそのバケツ宛に手紙をだすことができる。プロジェクト初日、その手紙を届けにきた郵便配達員は、届け先の住所を発見することができずにうろうろすることになる。郵便配達員は、近くの店の人に住所を尋ねると、あらかじめプロジェクトの内容を知らされていた店員が「あのバケツに入れておけばいいんですよ」と答える。すると配達員は納得して、そのままバケツに手紙を投函して帰ってしまう。こういうことが何度かくり返されるうちに、バケツが住所をもつような状況が日常化する。このバケツには自由にメッセージを入れることができたが、ゴミ箱とまちがえてゴミを捨てる人もいたらしい。
 このプロジェクトが話題になって新聞で紹介されると、あわてて市職員や警察官が宮川たちのところにやって来て、このバケツを路上から撤去してくれと要請した。なんでも「勝手に住所をつくられたら困る」ということらしい。この時点でメスタンクのプロジェクトは終了した。
 こうした都市空間を日常生活に取り戻していくような実践は、RE/MAPのひとつの大きな源流である。そしてそれは、これまでにラフォーレミュージアムで行われてきた、一昨年の「Dream On」、昨年の「Transit」のふたつのプロジェクトまで一貫して続いてきた。今回のRE/MAP2002は、そうした一連の試みの一断面としてみることもできる。
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 今回のRE/MAP2002は、現在の都市空間がどうしようもなくグローバリゼーションによって変容してしまっているという認識にもとづいている。昨秋のRE/MAPの準備をしているときに、ニューヨークで9.11のテロが起こった。ギャラリーSOAPのスタッフは、シンポジウムやクラブイベントのVJで用いるビデオ・プロジェクターのスクリーンを通して、この映像を観ることになる。それははからずも、RE/MAPのオープニング映像のような役割を果たすことになった。スタッフは、RE/MAP会期中も世界中にメールで情報を発信し、同時にRE/MAPプロジェクトだけでなく、テロやアフガニスタンの空爆についても多くの反応やメッセージを得た。その中の数人は今回の参加アーティストでもある。
 「地図」という言葉を手がかりに、RE/MAP2002には、日本の北九州、東京、名古屋だけではなく、シドニー、カラチ、バギオ、香港、ベルリンからさまざまな人やグループが参加している。グローバリゼーションは、経済的な国際市場の一元化、アメリカナイゼーション(あるいはマクドナルド化McDonaldization)という文化の均質化や統一化、西洋化という文明化のプロジェクトとしばしば同一視される。それは、かつて存在したような「帝国」のように、なにか強力な中心を核としながら、外部をもたずに無限に拡大していくようなイメージである。しかし、こうした動向はコインの一面にすぎない。このプロセスにおいてむしろ重要なのは、それとはまったく関係のないところで、いわば周縁化されていた場所どおしが勝手につながり、無数のオルタナティヴなネットワークをつくりだしつつあることである。
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 この新しいプロセスではっきりしてきたのは、中心/周縁という二分法がすでに無効となりはじめているということである。もちろんこのことは、世界から経済的・政治的周縁がなくなり、貧困や紛争がなくなるということを意味しているのではない。そうではなく、経済的・政治的周縁の場さえもが、独自に複数の場からなるネットワークを形成し、自律した文化をつくることができるようになってきたのだ。
 中心/周縁の二分法を死守しようとする人たちは、中心の人であれ周縁の人であれ、自ら中心にいることを保持するためになにかを守ろうとしているか、そうでなければ周縁にとどまることがなんらかの特別 な意味があるかのように誤解している。RE/MAPは、今のところ北九州という日本の地理的周縁で行われているが、中心にむけて周縁からの異義申し立てをしようとしているのではないし、ましてや中心になろうとしているのでもない。単にその二分法自体がフィクションで、いまではくだらない冗談になりはじめているということを、さまざまな形式や媒体によって表現しようとしているのである。
 とはいえ、この試みはまだまだはじまったばかりである。中心/周縁の思考法に骨の随までひたってしまっている人も少なくないだろうし、そういう人は、はなはだ居心地の悪い思いをするかもしれない。しかし、その居心地の悪さを通 り抜けると、あなた自身が新しいグローバルな「世界地図」を身につけることができる。その新しい地図を持って街を歩くとき、革命的な身体を手に入れることができるだろう。
text: 毛利嘉孝
RE/MAPプロジェクトは、展覧会やプロジェクトの新しいフォームを呈示することを目的にしています。 従来のような、アーティストやキュレーターのオリジナリティーに依拠した展覧会ではなく、 さまざまな人が関わり、さまざまな形態に変化し、ある種の複合体のようなプロジェクトです。 私達はこのプロジェクトを各地で連続的に展開したいと考えています。 そしてそれは、各地の環境によって組み換えられ、再編集されます。 私たちの志向するアートとは世界と無関係に自立したものではなく、しかしまた、国家や共同体(近代)の 提示した、いかなる固有の領域からも離脱する意志を持ったものです。

国家や巨大な資本におもねることのない、この展覧会の小ささ、慎ましさは、世界というテーブルをシェアするための別 の戦略になるのではないでしょうか。
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 北九州という都市で始まったRE/MAPというアクションは、多元的な交換と多様なモード変換によって、見慣れた街といつもの暮らしにエアを供給し、またグローバルな状況下で個と個が直結することによって、異なるものとの出会いの際に生じる干渉を軽々と乗り越え、第三の場所のその先まで、私たちをひょいといざな誘ってくれる。
 RE/MAPは、北九州を拠点とするアーティスト・ユニット、セカンド・プラネット(外田久雄、宮川敬一、森秀信)と、九州大学の毛利嘉孝助教授(比較文化社会学)の企画によって立ち上げられた。彼らのステイトメントを要約すると、「RE/MAPとは狭義の「アート」プロジェクトとして回収されることを拒絶し、展覧会やプロジェクトの新しいフォームを呈示することを目的とする。様々な人が関わることで、様々な形態に変化する、ある種の複合体のようなものである。」今回ラフォーレ・ミュージアム小倉で開催されたRE/MAP2002は、小倉北区で宮川が運営するオルタナティブ・スペース「ギャラリーSOAP」を中心に、昨年9月に行われた一週間に及ぶワークショップ(オリエンテーション、レクチャー、フィールドワーク等)と2月に行われたディスカッションというプロセスを経て、この流動的なプロジェクトの一展開として呈示された展覧会である。地元北九州をはじめ、福岡、東京、名古屋、香港、バギオ、ベルリン、シドニー、カラチと国内外の様々な都市からやってきたアーティストが、夫々の視点と感覚で再地図化を計る。
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もちろん、筋書き通りに都市や日常をカットアップ&リミックスしパーソナルにデフォルムした地図を素直に呈示するはずもなく、見事にバラバラなアプローチで迫ってくる。
 毎日正午に全世界に向けてe-mailを発信し返信されてきた非常に個人的なメッセージを公共空間にまき散らすセカンド・プラネットの「at noon」、オフラインの人間サーチエンジンとして「幸福」等と書かれたカードを掲げてベルリン中ヒッチハイクを行い感情的な空間への遠征を試みながら、路上での出来事やコミュニケーションをweb上で再構築するフィリプ・ホーストの「ExpeditionBerlin」、*candy factoryの「NON BROADCASTING TIME TNC」は、非現実的な空間でありながらお茶の間にすっかりすり込まれているイメージである地元人気情報番組のTVセットを撮影し、放送時間外の空間そのものを美的に凍結させて見せることで、見慣れた騒々しいメディア空間が昇華され、同じ空間の異なるイメージの違和感によってその歪みの検証を促している。
 然るに、ハワード・チャン+グ・ツゥ・クワンやエミール・ゴーも含め、近頃の展覧会の例にもれず、プロジェクターによるプレゼンテーションが多く、ともするとフラットな画面ばかりが気になりがちだが、建築家の矢作昌生が、建築用の足場を利用したインスタレーションで介入し、画面をビルボードに見立て、オープンでありながら複雑に入り組んだ都市のような様相を浮かび上がらせることでうまく回避している。
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 また、俗に地図が読めないとかいわれている「女性」のアーティストは夫々のスタンスで観客に地図/島を作るプロセスへの参加を促す。おままごと?と思いつつも架空の島にこだわりのマイホームを!とハマってしまうAre You Meaning Companyの「Island project」に対し、地図を作る行為自体犯罪になってしまうというパキスタンのドゥリヤ・カジは、北九州の地図上に、個人的な思い出の場所をプロットし、その場所にまつわるエピソードを収集する。婚礼の際に飾るタペストリーを装って金糸銀糸で刺繍された地図の前に置かれた机の上では、過去も素直に向き合える。展覧会の幕は下りたが、何かの代わりを求めるのではなく、実現したいものに向かう大人達が熱中するRE/MAPは、既に次の目的地を目指しているようだ。今後のアクションに注目したい。
text: 原田真知子

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